自殺と「うつ病」
自殺未遂者が搬送される救急センターの現場から(1)
毎年の夏、警察庁が、前年度1年間の自殺者数を集計、発表する。2000年の自殺者は全国で、3万1957人。2001年は、3万1042人だった。02年も03年も3万人を超えて、6年連続3万人を超した。一日当たりだと、90人くらいであり、毎日90人が自殺しているとは、深刻な状況である。
インターネットで知り合った自殺願望者が、一緒に自殺するという痛ましい事件が起こっている。著名な俳優の自殺も報道されている。自殺者のうち、「うつ病」にかかっていた人が多い。何かの出来事で、悩みをかかえると、心の病気「うつ病」にかかって、その本人が「うつ病」であるという自覚なく(病識がない)、うつ病がひどくなって自殺することがある。悩みをかかえると、誰でも「うつ病」に陥る可能性があり、「うつ病」になると、5、6人に一人が自殺を企図するようであるから、この苦悩とうつ病の関係を、すべての人が充分理解しておく必要がある。他にも、統合失調症や、神経症性障害も、精神的ストレスによる限り、坐禅で軽減する人が多いはずである。なぜなら、自殺は、極端な二元的考え(死ぬしかない)、偏った考えであり、自己洞察瞑想療法は、偏った考えを克服するのが目標であるから。
最近、また、自殺の報道が多いので、実態をみておきたい。なお、不安障害、統合失調症の人の自殺も多い。その病気をわずらって治らないために、仕事などに支障をきたして苦痛に思うと、「抑うつ」症状を併発し、自殺するのである。「不安」を起こすものを回避して、家にひきこもっていれば、QOL(生活の質)が低く、不満・苦悩が大きいためにうつ病を併発するおそれがあるので、「不安」症状が起こらないからよいなどと思わず、積極的に治す機会を利用したほうがよい。
救急現場での実態=うつ病と自殺
03年1月に「自殺の病理と実態ー救急の現場から」という本が出版された(1)。自殺が発見された場合に、救命のために、ただちに救命救急センターなどに収容される。全国の、救命救急センターでの自殺の実態が報告されているが、そのうち「統合失調症」「うつ病」「神経症」の割合の報告をみてみる。
家族や知人から自殺者を出さないようにしてもらいたい。特に「うつ病」「神経症」による自殺は、心理療法によって、防止できる人も多いから、この病気についてよく理解してもらいたいからである。統合失調症の人も、その病気を苦に思わないこと、ストレスで再度重篤な状況になることを防止するのに、坐禅に似た心理療法が効果があるだろう。(「精神分裂病」は、病名の呼称変更により「統合失調症」になったが、ここでは、統合失調症に置き換える)
最後にご紹介した「まとめ」によれば、「うつ病」および「神経症」「統合失調症」による自殺が多い。自殺は、「抑うつ」から引き起こされるようであるが、神経症圏は、主な症状は「不安」「恐怖」である。また「統合失調症」の主な症状は「幻覚・妄想」である。なぜ、神経症圏や統合失調症圏の患者の自殺も多いのか。私の推測では、「神経症」も、最初は「不安・恐怖」が主な症状であっても、その病気が長引くうちに、学業や仕事、家庭生活に支障をきたして、苦悩が深まり、結局、抑うつ症状を併発して、自殺念慮を起こすのではないかと思う。従って、神経症圏、統合失調症圏の病気の人も、積極的に治す機会をさがす努力をしたほうがよい。
日本医科大学附属病院高度救命救急センター
日本医科大学附属病院高度救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者124人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が17人(13.7%)
- F3気分(感情)障害が22人(17.7%)
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が63人(50.8%)
だった(2)。気分(感情)障害は「うつ病」が多い。
埼玉医科大学附属病院救急部
埼玉医科大学附属病院救急部に99年1月から12月の1年間に搬送された自殺企図者151人のうち、精神科的背景が明らかなものでは、
- 統合失調症が7人
- 感情障害(うつ病)が68人
- 人格障害が9人
だった(3)。
東海大学病院救命救急センター
東海大学病院救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者205人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が41人(20.0%)
- F3気分(感情)障害が48人(23.4%)
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が42人(20.5%)
だった(4)。
久留米大学高度救命救急センター
久留米大学高度救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者15人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が4人
- F3気分(感情)障害が6人
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が4人
だった(5)。
大阪府三島救命救急センター
大阪府三島救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者43人、既遂者13人、合計56人のうち、
- F20,F23.1統合失調症、統合失調症状を伴う急性多形性精神病性障害が12人
- F32,F33.1うつ病エピソード、反復性うつ病性障害が13人
- F40,F42,F43.0,F43.2恐怖症性不安障害、強迫性障害、急性ストレス性反応、適応障害が9人
だった(6)。
札幌医科大学医学部救急集中治療部
札幌医科大学医学部救急集中治療部に99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者35人、既遂者33人、合計68人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が8人
- F3気分(感情)障害が21人
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が22人
だった(7)。
大阪府三島救命救急センター
大阪府三島救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者23人のうち、
- 統合失調症圏が6人(26.1%)
- うつ病圏が7人(30・4%)
- 神経症圏が4人(17.4%)
だった(8)。
関西医科大学高度救命救急センター
関西医科大学高度救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者34人のうち、
- 統合失調症圏が7人(21%)
- うつ病圏が13人(38%)
- 神経症圏が4人(12%)
だった(9)。
広島大学医学部附属病院救急部
広島大学医学部附属病院救急部に99年4月から00年3月の1年間に搬送された自殺未遂者23人のうち、
- 統合失調症圏が3人(13。0%)
- うつ病圏が6人(26.1%)
- 神経症圏が11人(47.9%)
だった(10)。
岩手医科大学高次救急センター
岩手医科大学高次救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者103人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が13人(12.6%)
- F3気分(感情)障害が45人(43.7%)
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が29人(28.2%)
だった(11)。
まとめ
5か所の、救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者484人のうち、
- F2統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害が89人(18.4%)
- F3気分(感情)障害が127人(26.2%)
- F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害が158人(32.6%)
だった(12)。また、日本救急医学会精神保健問題委員会により作成された分類によれば、3か所の救命救急センターに99年1月から12月の1年間に搬送された自殺未遂者80人のうち、
- 統合失調症圏が16人(20.0%)
- うつ病圏が26人(32.5%)
- 神経症圏が19人(23.8%)
だった(13)。
このように、救命センターの統計によれば、うつ病と神経症による自殺が多い。うつ病は、本人も「病気」でないことを知らない人が多い。この2つの病気を早く治すことが自殺を防止することになる。まず、精神科、心療内科などの診察を受けて、治療を受けることが大切である。早期治癒、再発防止のためには、心理療法も受けて、ものごとの見方を変えていく必要がある。それでも、不安が去らないのであれば、この病気に理解のある治療者による自己洞察法をおすすめしたい。うつ病(神経症などから「うつ病」を併発するのを含み)による自殺が多いが、それは、本人や家族がその病気をよく理解して適切に対処すれば、防止できる。
(注)
- (1)「自殺の病理と実態ー救急の現場から」医歯薬出版株式会社、2003/1。
- (2)同上、75頁。鈴木博子、山本保博の両氏の報告。
- (3)同上、78頁。小野一之、横手祐二の両氏の報告。
- (4)同上、83頁。市村篤、幕内博康の両氏の報告。
- (5)同上、86頁。川嶋隆久、加来信雄の両氏の報告。
- (6)同上、89頁。小林正直、冨士原彰の両氏の報告。
- (7)同上、91頁。吉田正志、小澤寛樹の両氏の報告。
- (8)同上、93頁。上野直子氏の報告。
- (9)同上、96頁。中谷壽男、廣田卓也の両氏の報告。
- (10)同上、98頁。佐伯俊成、大谷美奈子の両氏の報告。
- (11)同上、101頁。谷口繁、鈴木満の両氏の報告。
- (12)同上、104頁。岸泰宏、黒澤尚の両氏の報告。
- (13)同上、104頁。岸泰宏、黒澤尚の両氏の報告。