薬物療法以外のうつ病の治療法(心理療法など)
「こころの科学」97号で、「うつ病治療の最前線」を特集している。薬物療法のみではなく、うつ病の治療に薬物療法以外の心理療法などを用いることがある。これが薬物療法以外のうつ病治療の最先端である。次の療法である。その治療法の内容ではなくて、普及程度、課題を述べた部分を中心にご紹介する。薬物療法以外にも研究されているが、厳しい現状である。
- (A)「うつ状態の患者に対する接し方」
坂本○典(のぶみち)氏(○は、へんが「申」で、つくりが「易」の文字)(1)
これは、基本的に支持的精神療法である。
- (B)「うつ病の認知療法」
井上和臣氏(2)
英語版ビデオに収録された認知療法を紹介である。そして、次のようにしめくくっている。
「おわりに
認知療法は、わが国でもうつ病をはじめ多用な精神障害、さらには社会病理現象にも適用されてきているが、実地臨床上解決すべきことがある。そのひとつが、外来診療の限られた時間枠のなかで、どのようにすれば認知療法の「小精神療法化」を進められるかという問題である。
また、治療の恩恵を多くの患者が享受できるためにも、認知療法を行う人材育成が不可欠な課題になっている。」
- (C)「森田療法によるうつ病の養生と治療」
中村敬氏(3)
「森田療法を応用したうつ病の養生と治療」を論じている。
具体的な養生のコツとして、次の点をあげている。項目だけを列挙する。
極期のすごし方
@うつの極期は、ごろごろ過ごす(「果報は寝て待て」)
A通院、服薬は欠かさない。
回復期にはいったら
B養生の実践は回復期にはいってから(「冬の後には春が来る」)
C状態に応じて、休息と活動のバランスを調節する(「臨機応変」)。
D「〜したい」を大切にする。
回復後期の養生
E生活の形を整える(「外相整えば内相自ずから熟す」)。
F今を生きる姿勢(「前を謀らず、後ろを慮らず」)。
Gこの時期の不安はそのままにおく(「朝雨に傘いらず」)
H「かくあるべし」にとらわれず、「かくある事実」を受け入れる。
回復の後に
I病前の生活を振り返ってみる(「禍転じて福となす」)
上記は順調に回復する経過である。遷延したうつ病に対して入院森田療法を行う。
- (D)「サイコエデュケーションと家族への援助」
上原徹氏(4)
家族が患者に対して、批判や敵意などの感情を表出(EE:Expressed Emotion)することが多い場合、うつ病の再発、遷延などが関係するといわれる。そこで、心理教育(サイコエデュケーション)によって、家族の関係性を肯定的に変化させようとする。患者さん自身への心理教育も行われる。
「日本では忽滑谷らが、日本人向けの抑うつ症状改善や再発予防を試みている。彼らは寛解したうつ病患者を対象に再発予防を目的とした「ストレス予防教室」を行っている。病気の説明や対応策、否定的な認知の悪循環に対する認知療法的対処、対人関係上の問題などへの行動的アプローチ、自己主張訓練などを通して、充分な健康管理を含めた、やりすぎない、無理ない生活習慣への参加は、居場所や達成感を得る機会になる利点があるという。」(75頁)
心理教育は、うつ病の治療に期待されるという。
「また心理教育には、治療への積極的なユーザーへの参加やインフォームドコンセントとのかかわりが」切り離せない。患者さんや家族と協力して治療に当たる、という当たり前の姿勢が実践されるアプローチとして、今後さまざまな領域に広まることを期待したい。」(78頁)
- (E)「電気けいれん療法」
本橋伸高氏(5)
「電気けいれん療法(ECT)は、頭部に少量の電流を流しけいれん引き起こすことにより、うつ病を中心とする精神疾患を治療する方法である。」
「わが国はETCの後進国である。過去にETCが治療をはなれて管理手段としてのみ用いられたり、オウム真理教で「記憶を消す」ために用いられたりしているこのようなETCに対する負のイメージが強いこともあり、治療法としてETCを確立する作業を怠ってきた。現在ETCのガイドラインな作成、パルス波治療器の認可申請など、わが国のETCを世界的な水準に高める努力が続けられている。ETCは薬物療法以上の効果を示すものの、副作用がないわけではない。しかし、薬物療法にも副作用はあるので、病気の重症度と治療の危険性をはかりにかけて治療法を選択することが大切である。」
- (F)「高照度光療法」
永山治男氏(6)
高照度光療法(光療法)は、患者に人工照明をあてて治療する方法である。
「光療法には、通常、縦横各七〇センチメートル程度のボックスに六〜八本の蛍光灯を備えた光照射装置が用いられるが、この装置は最近では市販されている。」
「照射の時間は通常二時間であるが、一万ルクスの光を用いる場合には三〇分程度でよい。いずれにしろこれらの時間の間連続的に、しかも毎日行うことが必要である。」
「すべてのうつ病に有効というわけではないが、少なくとも季節性うつ病に有効なことは明らかである」
「季節性うつ病以外の通常のうつ病に対する効果については、著効四〇%、有効三〇%で、合計七〇%の患者に有効性が認められたとする報告がある一方で、まったく無効であったとする報告もあり、結果は一致しない。(中略)
今後、通常のうつ病における光療法の効果について、より多くの患者を対象とし、効果持続の問題などをも含めて検討した研究の出現が待たれる。」
- (G)「うつ病の断眠療法と睡眠操作による治療法」
内山真氏(7)
睡眠を操作して、うつ病を治療する方法である。
「患者を二一〜二二時に就寝させ(睡眠薬を用いる)、二時に覚醒させて、翌日の就寝時間まで覚醒を保持させる(スタッフの指導でレクレーション、ゲーム、散策を行う)のが、一例である。
「通常は、入院と同時に週に二〜三回の頻度で一〜二週にわたり夜間後半の部分断眠療法を行う。」
日本での臨床応用は、今後である。
「断眠療法の研究および作用機序の解明は、うつ病治療および生活指導に新たな地平を切り開くものと期待したい。」
- (H)「磁気刺激療法」
瀧川守国氏(8)
頭部に磁気刺激を反復的にあてて、発生する渦電流が大脳の神経細胞を刺激して、うつ病を治癒させる方法である。(反復経頭蓋磁気刺激法:rTMS)
「今後適用が容易になれば、また安全性に充分留意しさえすれば、rTMSによるうつ病治療は、開業クリニックなどでも使える新しく、非侵襲的な将来性のあるよい治療法だと考える。」
(注)
- (1)滋賀県立精神保健総合センター社会復帰部長(「こころの科学97」(うつ病治療の最前線)日本評論社、58頁)
- (2)鳴門教育大学教育臨床講座教授、同上、63頁。
- (3)東京慈恵医科大学第三病院精神神経科、同上、67頁。
- (4)群馬大学医学部神経精神医学教室、同上、72頁。
- (5)国立精神・神経センター武蔵病院外来部長、同上、79頁。
- (6)大分医科大学精神神経医学講座教授、同上、82頁。
- (7)国立精神・神経センター精神保健研究所精神生理部部長、同上、86頁。
- (8)鹿児島大学医学部神経精神科学教室教授、同上、92頁。