TOP   アメリカの新しい心理療法(マインドフルネス心理療法)目次

アメリカの新しい認知行動療法=簡単にいうと

 今、アメリカの最先端の心理療法をみています。ずいぶん、むつかしくみえるでしょうが、簡単にいうと、こうです。
 種々の心の病気や、非行・犯罪が、自分や他者を苦しめます。その時、人間の心理が動くわけです。思考、感情、気分、欲望、そして、それにかられて人は異常な行動(非機能的行動)をします。  非機能的行動には、心の病気になるものと他者を害する非行・犯罪の行動があります。  こういう行動を取る心理が詳細に分析され、議論されます。そして、治療、更生の方法が開発されます。その時に、心理的な理論からは、原因、過去が分析されますが、いくら詳細に分析され、原因がわかっても、ヴィルスのよる病気とは異なって、こういう病気、問題は、本人の今の心理を変容させなければ、治らないわけです。行動は、思考や感情・欲望に影響されます。思考・感情・欲望(あるいは、その反応のしかた)を変容させないと治らないわけです。その問題に至った原因がいくら詳細に分析されても、今の人間の心を変容させないと治らない。その治す手法が種々研究され開発されました。認知行動療法もその一つです。認知を変えれば、感情、欲望、衝動が変わる、そうすれば、非機能的行動にならないと考えたのです。それで、認知療法が開発されました。本人の認知(内容と認知のゆがみ)を修正しようと試みた。たとえば、従来の認知療法では、自殺念慮を持つ人には、違う見方がある、別な選択肢があると説得して、自殺しようとする思考を変えようという方針で、カウンセリングするわけです。認知療法は、うつ病、パニック障害、ほか、多くの領域で、効果があるとされてきました。しかし、その認知療法でも、治らない問題がある。そこで、新しい心理療法が、研究されてきた。
 その新しい心理療法は、認知行動療法の要素もあるが、かなり違う手法が用いられる。マインドフルネスとアクセプタンスです。詳細は、記事をみていただきたいのですが、自殺念慮で、その手法をいうと、伝統的な認知療法のやりかたとは少し違うのです。
 今にも、自殺しようとしている人に、マインドフルネスとアクセプタンスの実践を教える。これは、思考、認知を直接修正しようとはしません。坐禅のような、自分の心の作用を観察することを実行す。呼吸法を行いながら、感覚・思考・感情などを観察し、受け容れ、放す心の訓練をする。それを、1,2週間も繰り返し実行すると、日常生活での、もののみかた全般に変化が起きる。つらいことがあってもみだりに 思考を暴走させず、 「いやな感情・気分」にならない時間があることに自覚できるようになる。感情、気分が好転する。そうすると、自殺したいとは思わなくなる。種々の意欲、生きる意欲も出てくる。直接、「死ぬしかない」という認知に対して、「死ぬな、死ぬな」という一つのテーマだけ説得を繰り返すのではなくて、「ちょっと、その問題は、脇において、呼吸法をやってみてください」といって、その実行法を教えるのです。そうして、自分の思考・感情・気分・状況(経済的、身体的苦悩)を観察し、受容し、放すことを繰り返すと、人生観、自己観、世界観、未来観が変わってくる。思考(死にたいというのは、その一つにすぎない)や感情は、生滅する(生じたり消滅したり)もので、執着すべきものではないことが身にしみてわかる。そこで、一時の観念や感情や欲望にふりまわされず、静かに自分自身(作用、作用を起す自己)を深く観察し、建設的なことに精神を向けていくという生き方になります。それで、いつのまにか、自殺念慮などなくなっている。
もちろん、その方法の効果は、指導者から詳細に説明される(インフォームド・コンセントです)。
 簡単にいえば、このようなカウンセリング技法です。対象となる非機能的思考や行動が多数あるので、少しづつカウンセリング技法が変わるので複雑そうにみえます。また、本人が、それを実践できるように仕向けることも簡単ではない人がいます。この手法は、かなり効果があることがわかってきましたが、治療者(カウンセラー、セラピスト)のいうとおりには、実行してくれない人がいます。障害、問題によって、少しづつ説明(弁証法的行動療法もそういう一種)や実践法を変える(アメリカで、種々の障害に多少異なるプログラムが開発される)ほうがいいこともあります。障害によって実践のどこを変えたらよいか、できるだけ、個別、グループ、簡単に実践する方法、期日、説得法など研究の余地があります。しかし、重要なことは、みな、認知(思考)の内容ではなくて、認知を含めてすべての意識作用を洞察して、今の瞬間の出来事への反応のしかた、特に、マインドフルネス(今、ここへの集中、価値実現以外のことに執着せず、不快事象を放す)、アクセプタンス(受容)です。
 自己洞察瞑想療法(SIMT)も、うつ病、パニック障害、統合失調症、対人恐怖、心身症の一部などに、一定の効果をあげています。しかし、今は、通院方式のみで、個別カウンセリング方式とごく少数のグループ方式で、かなり時間をかけています。コスト的には、大勢の患者が来る病院やカウンセリング所で行うためには、グループ方式がよいでしょう。多くのカウンセラーが簡単に習得でき、大勢の患者に指導できるような簡便な自己洞察瞑想療法を応用開発して、また、種々の障害にあったカウンセリング技法(たとえば、長引くうつ病、アルコール依存症のために10日間、1カ月間の入院方式、しかも、コストの点からグループ方式=定型化して誰でも指導できるような)で大規模な臨床試験をする必要があります。普及は、これからです。種々の障害、それに見合う方法は、今後の研究次第です。日本の、心理学、医学などの関係者、僧侶の方の参画を期待するものです。種々の領域の心の問題にかかわる関係者、関心のあるボランティアにも期待したいです。マインドフルネスやアクセプタンスの実践が、心の問題を治すということがわかってきたことは、心理療法が新次元にはいったのです。インドの仏教が、専門家による詳細な精神分析(アビダルマ)、つまり救済の実践を欠く学問のための学問に陥り、現実の苦悩を救済できなくなった。それを批判して、在家の実践者が救済するようになった(大乗という)という流れに似ているとは思いませんか。思想内容や心理の詳細な分析(個別的、静的、机上的)よりも、生きていく上でのものの見方、考え方の全体の取り組みのしかた(総合的、動的、実践的)を実際に訓練していくことで、苦悩を解決する。
 アメリカのむつかしい本をご紹介しているのは、このマインドフルネス瞑想を織り込んだ心理療法は、日本では、行っているところがないからです。日本にとっては新しい情報です。薬物療法や従来の心理療法では治らない難治性の心の病気(重症、長引く障害など)などを治そうとして、臨床的な効果が報告されてきた新しい療法です。
 アメリカのマインドフルネス心理療法は、東洋の哲学を背景とせず、禅の手法だけを取り入れた流派もあります。自己洞察瞑想療法(SIMT)は、東洋の哲学を背景にしています。