
自殺する人の8割は相談しない
=また、自殺未遂になる人は少なくて9割は1回目で死亡する
自殺した人や、しようとした人の8割は、事前に家族や友人に相談していなかった。
また、亡くなった人のうち、未遂歴のある人は1割程度で、9割が1回目で死亡していた。確実に死亡する方法をとっている。こうしたことが、厚生労働省研究班のまとめで分かった。( 朝日新聞 2007年04月22日 )
厚労省の研究班が、03年8月から06年12月まで、岩手、福島、大阪、東京の四つの救命救急センターで調査した。センターに運ばれた未遂者1516人と、亡くなった209人の遺族らを対象に、精神科医が聞き取りをした。
- 2割しか相談しない
自殺の前に、「誰かに死にたい気持ちを話しましたか」という質問に、家族に相談していたのは16.3%、友人にしていたのは8.3%だった。精神科医に相談していた割合は3.8%だった。研究班は「家族と友人の両方に話をしているケースもあり、全体でみれば2割程度が、事前に相談していた」としている。
- 相談するのは男性の方が少ない
男女別でみると、男性の未遂者の場合、家族に相談していたのは13.8%、友人5.8%。精神科医2.2%だった。一方、女性の未遂者は、家族に18.0%、友人10.6%、精神科医4.8%で、男性より、周りに打ち明けているケースが多かった。
- 9割が1回目で死亡
また亡くなった209人のうち、確認できた148人を調べると、過去に自殺を試みたことがあったのは9%で、1回目で91%が死亡していた。
欧米の場合には、1回目で死亡する割合は、日本よりも少ないという。米国の研究では、自殺を図った人の約2割が、その直前1カ月間に精神科を受診しており、日本と大きな差があった。
こうした結果から、研究班の保坂・東海大医学部教授は「1回目で多くの人が亡くなるのであれば、未遂者のケアはもちろんだが、もっと自殺予防やうつ病に関する啓発活動をする方が、効率的ではないか」と話している。
1998年から、最新調査の2005年まで、毎年3万人以上が自殺している。こうした中で、今回の調査結果は、日本の<自殺防止対策>は、欧米とは別の対策が必要となることを意味する。
今後、研究していかなければならないが、日本の特殊な事情がいくつか挙げられる。
- (1)精神科医療の問題
日本は、うつ病に偏見があるために、精神科医にかかりにくい。職域でも、理解がない
。
日本の医師は、薬物療法中心であり、心因性うつ病は治らない割合が高く、治らなければ、自殺のリスクが高まる。精神科医は、心理療法を提供できない人が多い。
他の問題(過食症、依存症、パニック障害、統合失調症、境界性パーソナリティ障害など)からも、うつ状態が起こり、自殺することもある。こういう分野の心理療法も、日本は、遅れているようだ。
うつ病、自殺問題に効果がある心理療法として、認知療法、対人関係療法、マインドフ
ルネス心理療法があるが、臨床心理士が行なうと、保険がきかず、カウンセリングの費用
が高くなる。また、認知療法、対人関係療法、マインドフルネス心理療法ができるカウン
セラーが医者ほど多いわけではない。等々。
- (2)うつ病について教育されていない
うつ病であるのに、身体症状を訴えて患者がおとづれるプライマリー医(内科医など)でさえも、うつ病に気がつかない医者が多い。まして、一般の人は、知らない。学校教育、社会教育で、うつ病、自殺防止の教育はなかった。子どもは、なおさら、知らない。いじめられていることと、うつの症状、自殺念慮が関係があるとは知らないだろう。(私も、40歳まで、知らなかった。あぶないところであった。自分や家族が、うつ病になっても、わからなかっただろう。)
- (3)支援を求めない人がいる
困っても、他人に相談しようとしない人が多い。うつ病でなくても、誰ともコミュニケーションしようとしない、ひきこもり傾向の人がいる。次の記事で、似たような問題を考えた。普段から、こういう内気、内向的、内にこもるタイプ、孤立的な傾向の人、対人恐怖症の人、回避傾向の人などは、何かのストレスを受けて、うつ病となった時には、さらに、その傾向が強まって(症状からそうなる)、相談もせずに、自殺してしまうものと考えられる。
自殺の心理を研究しているシュナイドマンによれば、「自殺に共通する一貫性は、人生全般にわたる対処のパターンである。」という。
相談もせずに自殺するというのが日本の特徴であるとすれば、それは、「相談しない」という行動パターンは、若いころに形成されて、生涯にわたって同じような反応をしてきたということのようである。自殺になるのは、何かの心理的ストレスのために、うつ病になったためであることが多いが、自殺する人は、うつ病になる前から、おそらく、中学生、高校生の頃からも、他人に相談しない傾向だったのではないか。そういう人は、そういう傾向、行動パターンを持ち続けて、20代、30代〜60、70代になって、大きなストレスに遭遇したとき、うつ病になっても、相談せず、死にたくなっても、相談しないで、自殺していく。シュナイドマンのいう「人生全般にわたる対処のパターン」というのは、こういうことであろう。確かに、中学生、高校生で、誰にも相談せずに、自殺していくことがある。
こういうふうな観察が当っているならば、日本の<自殺防止対策>には、特別の対策が必要になるだろう。これまで、具体的になっていたのは、自殺未遂者のケアであるが、これでは、とても、まにあわないことになる。そうすると、どのような方向の対策が必要だろうか。(別の記事で)